家のたたずまい−『ワニ&ジュナ』

キム・ヒソンは、美しいが演技はいまいち、みたいな話をどこかで目にしたのだが、この映画では、繊細な感情をよく表現していて、清潔な雰囲気もよかった。
チュ・ジンモは、ハンサムでやさしい申し分のない恋人。チュ・ジンモじゃないといけない、という役でもないが、彼があまりに表面に出てくると、出番は少ないが画面を支配してしまうチョ・スンウとのバランスがくずれてしまうから、これはこれでいいのかもしれない。
留学していた弟が帰国するという知らせから、いっしょに住んでいる恋人と、どことなくぎくしゃくしてしまい、という話なのだが、過去と交互に語られる現在のシーンでは、それほど大きな出来事はない。ドラマがあるのは過去のほうで、その結論はすでに出ているわけだから、この映画の静かな水面がそっと動くような雰囲気というのは、そこから出ているのかもしれない。
印象的だったのは、ふたりが住んでいる家。もともと、女性のほうが生まれ育った家だったのだが、ほかの家族はいろいろな理由で別のところにいて、そこに恋人といっしょに住んでいる、という設定。『箪笥』とはまた違った意味で、静かな郊外の町にあるこの家の存在感が大きいのだ。とても居心地がよく、ほっとするような雰囲気の中で、過去の出来事をふだんは閉ざされた扉の中に閉じ込めている。この家から始まって、この家で終わる物語。
冒頭と結末のアニメーションの場面以外に、音楽がほとんど使われてないのも、効果的だと思った。

切り捨てすぎ−『純愛中毒』

決して退屈な映画ではないし、俳優の演技もよかったのだが、なんとも納得いかないのが「世間」との関わりがまったく描かれていないこと。
兄の死後、弟が兄嫁といっしょになる、というのは、韓国社会では道徳的な非難は免れないと思うのだが、その部分はまったく切り捨て。兄は家具作家としてそこそこ名のある人物のようだし、弟のほうも、カーレーサーで、世間的に無名の人物ではないようなのだが、兄の死後、それまでまったく別の職業についていた弟が、兄とそっくりの作品で展示会をやるという不思議に対して、なんの反応もないのである。
親類縁者、友人はまったく出てこない。彼ら3人の世界に割り込んでくるのは、弟を慕っていた女性だけで、彼女も弟との愛しか眼中になく、「世間」の役割は果たしてない。ドラマだと、そのネタで20話くらいは簡単にひっぱれそうだけどなー、なんて思うのは、わたしが韓国ドラマを見すぎなのか。
メイクなどの助けをまったく借りず、別の人物を表現するというのは、俳優にとって腕の見せ所だと思うが、イ・ビョンホンはらくらく合格。色男なだけじゃなく、うまいねー。イ・ミヨンは前半の幸せいっぱいの表情と、後半のすがりつくような瞳の対照が印象的。イ・オルの包容力の表現もすばらしかったし、俳優陣がいいだけに、設定の甘さがつらい。