家のたたずまい−『ワニ&ジュナ』

キム・ヒソンは、美しいが演技はいまいち、みたいな話をどこかで目にしたのだが、この映画では、繊細な感情をよく表現していて、清潔な雰囲気もよかった。
チュ・ジンモは、ハンサムでやさしい申し分のない恋人。チュ・ジンモじゃないといけない、という役でもないが、彼があまりに表面に出てくると、出番は少ないが画面を支配してしまうチョ・スンウとのバランスがくずれてしまうから、これはこれでいいのかもしれない。
留学していた弟が帰国するという知らせから、いっしょに住んでいる恋人と、どことなくぎくしゃくしてしまい、という話なのだが、過去と交互に語られる現在のシーンでは、それほど大きな出来事はない。ドラマがあるのは過去のほうで、その結論はすでに出ているわけだから、この映画の静かな水面がそっと動くような雰囲気というのは、そこから出ているのかもしれない。
印象的だったのは、ふたりが住んでいる家。もともと、女性のほうが生まれ育った家だったのだが、ほかの家族はいろいろな理由で別のところにいて、そこに恋人といっしょに住んでいる、という設定。『箪笥』とはまた違った意味で、静かな郊外の町にあるこの家の存在感が大きいのだ。とても居心地がよく、ほっとするような雰囲気の中で、過去の出来事をふだんは閉ざされた扉の中に閉じ込めている。この家から始まって、この家で終わる物語。
冒頭と結末のアニメーションの場面以外に、音楽がほとんど使われてないのも、効果的だと思った。