『血−吸血鬼にまつわる八つの物語』

yhlee2003-03-19

isbn:4150306400
「13」大原まり子
「薔薇船」小池真理子
「スティンガー」手塚真
エステルハージ・ケラー」佐藤亜紀
「血吸い女房」夢枕獏
「アッシュ−Ashes」佐藤嗣麻子
「かけがえのない存在」菊地秀行
「一番抵当権」篠田節子

そうそうたるメンバー。ただひとり、佐藤嗣麻子という名前には見覚えがなかったが、小説が本業ではなく、映像のほうの人らしい。大原まり子の「13」は『超・恋・愛』isbn:4334732186 で、夢枕獏の「血吸い女房」は、『陰陽師 付喪神ノ巻』isbn:4167528053 で既読であった。もっともこの本を買った目的は佐藤亜紀だったので、別に損した気分ではない。

そして、お目当ての「エステルハージ・ケラー」。『外人術』を思わせるようなウィーン旅行記風に始まったと思いきや、唐突に吸血鬼の話になってしまう。襟首つかんでぐいと引っ張るような力技ではあるが、それもけっこう心地よい。吸血鬼というと美しく、淫靡で、切れ味鋭いナイフのようなイメージがある。だがこれは、一生生まれた村から一歩も出ないような、もっさりした田舎者が吸血鬼になってしまった悲喜劇。信心深い吸血鬼なのだから、はなから形容矛盾である。