「人権」という言葉

在日韓国・朝鮮人と人権

在日韓国・朝鮮人と人権

1986年初版の本の新装版。最後の章が加えられており、ここだけでかなりのボリュームがあるので、旧版を持っている人でも、買っても悪くないと思う。
全編座談会形式で、とても読みやすい本なのだが、読みきるまでずいぶん時間がかかった。というのは、書かれていることひとつひとつに、自分の想念がわわわっと湧き出してしまい、本を置いて考え事に入ってしまう、ということがたびたびだったから。
在日社会と一口に言っても、60年代、70年代、80年代、そして現在に至るまで、その内実は大きく様変わりしているし、一世から三世、四世へと世代交代するに連れて、運動の課題も変化し続けている。そのあたりを俯瞰し、もう一度いまの立ち位置を考えるには格好の良書。また、在日の問題について、なんだかよくわからないけど、ちょっと知りたい、という人にもぜひ読んでほしい。
第5章の「7 国籍の問題と共生への模索」で、大沼と、他の参加者との意見の相違がとくに興味深かった。民族性と国籍を同一視し、帰化者が毎年確実な勢いで増えているという実態を、等閑視していた在日の指導層というのは、やはり自己批判が必要だろうなぁ、とわたしも思う。
大沼の発言に共感を持ちつつも、現在「在日社会」とか「指導層」なんてものに、どれだけの実態があるのかという根本的な齟齬も感じている。
そもそも「人権」を掲げたこのタイトル。新版発刊に際してタイトルを変更するという選択肢はなかったのだろうか。「人権」という言葉が、そして「人権」を謳った書物が、いま日本社会の中でどのように受け止められるか、編者たちが無自覚であったとは思わないけど。