読みやすいが奥が深い−『韓国の食』

帯に『大長今』の文字があるが、これは便乗本ではなく、88年に発行された本の新装版である。なぜ『大長今』が出てくるかというと、著者(というより、対談本なので語り手)がドラマの料理指導をした料理研究家の実母であり師でもある人で、宮廷料理を実際に作っていた女官に指導を受け本物の宮廷料理に通じた、たぶん最後の人だからである。
日帝時代に日本の女学校で学んだ著者が、日本の学者を聞き手に日本語で語っているわけだが、その語り口が、なんともいえずよい。すぐれた知性と、ユーモア感覚のある、ふんわりとした人柄が伝わってくるようである。
語られている内容は、単に料理の知識だけでなく、宮廷の習慣や一般の庶民の風俗、そして自らの生い立ちなど、多岐にわたっている。
いままで断片的に知っていたことが、すっきりと説明されていて、「あー、これはこういうことだったんだ」と読んでいてうなったこともたびたびだった。たとえば、「韓国では、朝、粥を食べる習慣がある」「韓国では朝食を大事にし、夕食と同じくらいのボリュームのものを食べる」これ、どちらも聞いたことがあるのだが、内容的には矛盾している。だが、どちらも正しかったのである。つまり、むかしの宮中では、朝起き抜けにまず粥を食べ、10時ころにちゃんとした朝食をとる習慣だったというのだ。
チャングム」ファンは必携だと思うが、韓国の文化や風俗について興味のあるすべての人にお勧め。