きれいでしょ

ペパーミント・キャンディー』の中に、ソル・ギョング演じる若いころの主人公が、ムン・ソリ演じる恋人と初めて出会ったころのエピソードで、「カメラで名もない花を撮って歩きたい」と言うところがあり、「花が好きなんですね」というムン・ソリに「예쁘죠?(きれいでしょ)」と答える。んで、ここの字幕は「かれんでしょ」となっているのである。
예쁘다 というのは「きれい」「かわいい」という意味で、日常よく使われる言葉だ。ここに「可憐」と入れるのは、訳しすぎのような感じもするが、主人公の微妙にキザで嫌味なところをうまくつかまえた訳だと思った。
この映画は倒叙法が使われており、これより前に出てくる別のシーンで(映画の中の時間では数年後)、主人公が仕事である町を訪れたとき、そこで出会った女性に、「初恋の女性を尋ねてこの町に来た」「住所もわからないが、彼女が見たものを自分も見ることで満足」などと事実が入り混じった微妙でロマンチックな嘘をつき、まんまとその女性と一夜を過ごすという場面がある。嘘をついている、というよりも、その町出身の昔の恋人のことを思っている気持ちが、彼の中でそういうストーリーになってしまい、自分でもそこに入り込んじゃっているという感じ。
先にそこを見ていると、若き日の主人公のロマンチストぶりも、どうも素直に受け取れない。カメラが好きだとか、花が好きだとか、それはほんとなのかもしれないが、「花を撮って歩きたい」はこの場でムン・ソリの気を引くために思いつき、それを自然に口に出した、という風に見えるんだよね。
映画自体は淡々とした描写で、これはうがちすぎかもしれないが、ちょっと違和感のあった字幕から、字幕翻訳をした人の主人公へのわたしと同じような評価が見えたような気がしたのだ。